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 聴覚障害を扱った物語


群雲に舞う鷹

群雲に舞う鷹

秋山香乃 作

日露戦争で陸軍大将として第2軍を指揮し、日本を勝利に導いた立役者のひとりであった奥保鞏(おく やすかた)の伝記小説です。

当時の文壇で活躍した(「蒲団」で有名な)田山花袋や(「半七捕物帳」で有名な)岡本綺堂、そして(国民的文豪ともいえる)森鴎外まで登場して、それぞれの目に写る奥保鞏の軍人としての資質やヒューマニティに富んだ生き方を描きながらも、全体としては日露戦争の戦記的な要素も盛り込まれており、知らず知らずに読み進んでしまう面白い読み物になっています。

しかし、最も興味深いのは、その名将奥保鞏が難聴者であり、ほとんど耳が聞こえず、軍議なども筆談で行なっていたということ。もう一つは「薩長出身者でなければ軍人に非ず」とも言われた明治の軍閥で、小倉藩という小藩の出身でありながらも最後は元帥にまで登りつめるような大出世を果たしたことです。

さて、現在の政界や財界で、難聴者でありながらトップまで登りつめるという事が果たして可能なのでしょうか。とてもそうは思えません。
どんな競争社会にも派閥というものがあり、本人の素質や実力などよりその派閥の中でのコミュニケーションのとり方が出世に大きく影響を与える事実があるからです。
残念ながら本書は、奥保鞏が身体的なハンディと出身母体のハンディを乗り越えた武器は一体なんだったのか、という事までは教えてくれません。
唯、そういうハンディに負けない人が居たという事実は、似たような境遇で苦しんでいる人にとって大きなの希望となる事は間違いないでしょう。

人間の脳は、ある機能を司る部分が損傷を受けるとそれまでは全く関係なかった部分の脳がそれを補完するように発達することもあるのだそうです。耳が聞こえない、つまり余分な雑音が入ってこない分だけ軍事作戦の立案や咄嗟の軍事的判断能力の向上によい影響を及ぼしたという事も考えられるかもしれません。

そんなことも含めて、もう少し深く奥保鞏という類まれな軍人について知ってみたくなった一冊でした。

それでは、本書の中で心に残った一節をご紹介しましょう。

「決断を誤れば味方が死ぬ。大勢死ぬ。そんな圧迫感の中で君、全責任を背負って参謀の知恵をかりずとも瞬時に策を練り、決断を下していくことができるのは、我が国ではただ一人、奥保鞏大将しかいないと知っていたかね」
知りもしない。花袋は素直に驚いた。もっとも、軍事方面にはど素人な文学者だから、奥が参謀なくして策がたてられることにではなく、他の司令官が参謀がいなければ策がたてられないことの方に驚いたのだ。
「あのう・・・それはそんなにすごいことですか」
もっと詳しく説明を、恥じ入りながらも教えを乞う。
鴎外は嫌な顔をした。
「神業だよ。戦いは規模が大きくなればなるほど、考慮すべき視点が多重になってくるからね、一人の頭脳では必ず見落としが出る。それに、良い方法が頭に出ずれば、人というのはその妙案に囚われて、他の見方ができなくなるものだ」
「それでは奥大将は、あらゆる方角から見落としなく戦局を把握し、初めに浮かんだ自らの策にまったく囚われることなく、別の可能性を第三者的に引き出すことができるというわけですか」
言いながら、それはすごいな、と花袋は目をぱちくりさせた。本当にそれができるのだとしたら、すごすぎる。


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